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やがて透明になり存在さえも忘れられ消えていく想いは透明な存在としてどこかに存在している。
どこにあるのかは分からない。
伸ばした手に広がる波紋の先に想いの片鱗を垣間見ることができるだろうか。
透明の想 | スポンサー広告 | --:-- |
「ねえ、限界っていうのはないのよ」
彼女はそう言うと窓へ顔を向けた。 窓の外は何台かの車が通りすぎていった。 特別にこれといった景色が見えるわけでもなく、道路があり、建物がいくつか見えるだけだった。 それでも彼女は、何度も窓へ顔を向けた。 「それって、無限っていうこと?」 「永遠かも」 彼女はこちらを向き、にこりと微笑んだ。 僕は彼女の微笑んだ顔を見たときに、何気なく歩いていたとき、予測できない事態に遭遇したときのように、どきりとした。 それが、良い事への遭遇か、悪い事への遭遇かは、はっきりとは分からなかった。 「限界だよ、もう既に立っていることすらできない」 僕は言った。 テーブルを挟んで僕たちは向き合って座っていた。 彼女は頬杖をつき、口をつぐみ、窓の外をちらりと見て、僕を見た。 「物事には終わりがあるんだ。ある一点を超えると、もうそれ以上は行けなくなる。それが限界なんだ。山に頂上がなければ、帰って来ることができない」 「そうかしら」 「そうさ」 彼女は窓へ顔を向けた。僕は「そうかしら」という言葉を頭の中で反芻し、窓の外を見た。 そして、彼女の横顔を見た。 白い首筋がとても魅力的だった。そして、僕は彼女の首筋に話しかけた。 彼女は、僕の声をきくと、ゆっくりと顔を僕の方へ向けた。 「それは、無限っていう言葉があるから、限界がない事もあると思う。限界がなければずっと、走り続けていられる。でも、僕たちは有限なんだ。形あるものはいつかは、壊れるし、形あるものには容量があるんだよ。容量を超えてしまうことはできないんだ」 「そう」 彼女はつまらそうに、ただ、そう言った。 沈黙が続いた。 彼女は窓の外をただ、見ているように見えた。 車が何台か通り過ぎていった。様々な色や形や、用途の車が通り過ぎていった。 だが、どれも、タイヤがついていない車はなかった。 ホイールの形や色は違うものの、どのタイヤも、黒く、丸かった。 「ずーっと」 彼女は言った。 僕は窓に映る彼女の姿を見た。 景色がなかった。 そこには、彼女と僕の姿が鮮明にくっきりと映っているだけだった。 ほかの物が何もなくなっていた。 やがて、座っている感覚も、テーブルもなくなり、どこか何もないところに、僕たちは浮遊していた。 僕たちは手を取り合い浮遊する感覚のまま、漂っていた。 それは、ずっと永遠に続くかもしれないと思わされた。 でも、それは、永遠には続かなかった。 彼女の姿が淡くなり、うっすらとし、消え、浮遊感もなくなった。 そして気付くと山の頂に立っていた。 晴れわたった天気に、澄んだ空気が清清しく感じられ、疲労感がまったくなかった。 そして、頂を下りたところには、彼女の姿が見えていた。 淡くなりゆく色の中では雑踏の中に足を踏み入れたときの奮いあがらせるような熱気が蒸発し空の彼方上方に飛散し、それを受け止めきれなかった空は静かな雨を降らし、貯まった水溜りは僅かな熱気を残している。
水溜りはやがて静かな月明かりを受け僅かに残っていた熱気もどこかに 吸い込まれ、波紋が広がり透き通る音が暗がりの奥まで広がり、瓦の屋根を滑り台にして遊んでいた水滴の最後が大地を見ながら徐々に重くなっている下半身に気付きもせずにしがみついている。 犬が屋根の下を通りかかったときに水滴は犬の頭に落ちて、毛の中に吸い込まれた。 犬はひやりとしたものを僅かに感じたが、たいして気にしている様子はない。 水溜りを覗き込み、じっと、そこに見える何かを探しているようだ。 首をかしげた。 そして、匂いを嗅ぎ舌を水溜りの表面に触れさせた。 犬は居なかった。 水溜りもなかった。 月明かりも、暗がりも屋根も。 そこには、むせかえるような暑さがじりじりと迫っていた。 手の平を太陽に向け、指の隙間から太陽を伺った。 太陽は黒かった。 額の汗を拭うと、空間の汗は、舞い上がり、太陽に吸い込まれていった。 きっといいものが見つかるはずだ。
ふとした瞬間に限りなく溢れるものの中から一つの魅力が待っている。 感嘆するだろう。 想像だにしなかったものだから。 空を見上げたんだ。 雲が風に流されている。 あの空に形づくられた空との共有。 見上げなかったら雲はもうどこにもいない。 心の奥底にその事実だけが奥深く刻み込まれる。 ふと見上げた空は赤く染まっていた。 ふと奥底の雲が舞い上がり、赤く染まった雲と同化する。 雲は渦を巻き、あっという間に、一面藍色に染まっていた。 全てが藍色に染まっていた。 形づくられたものは見当たらない。 どこを探しても。 無限に広がる藍色だけが、ぽっかり包み込んでいる。 どこを探しても奥底にあった雲でさえも見当たらない。 刻み込まれたんじゃなかったのか。 途方に暮れ藍色の中をさまよいつづける。 どこまでも続く藍色。 そこには、何もかもが藍色だ。 空は、地は、空間は、物は。 ただ、藍色の認識だけはある。 小さな藍色は大きな藍色に飲み込まれ、小さな藍色は大きな藍色として 存在しているかのように見えた。 だが、大きな藍色を拒否し続けた主張する藍色は、小さな藍色として存在していた。 主張し、拒否し続けた為に、小さな藍色は大きな藍色に含まれず、藍色として存在しなくなっていた。 もはや、藍色ではない。 うっすらとした藍色を拒絶する輝きになった。 空を見上げていた。 刻み込まれた雲はないけれど、空がそこには広がっていた。 影が影を追いかけていた。
暗闇の中に四角い画面が映し出され、僕は目を見開きその光景をぼんやりと見つめていた。 画面は、クリーム色に光っていた。 その中に、追いかけられる影と、追いかける影が同じ場所をずっと走っていた。 淡く光るクリーム色の景色はなにも変化していない。 ずっと、同じ場所を影だけが、体を動かしている。 でも、それは同じ場所ではない。 明らかに、影たちは移動している。 ウォーキングマシーンのような場所を走っているのではなく、しっかりと地を移動しているのだ。 でも、どうしてそう感じたのかは分からなかった。 僕は目を閉じた。 影が僕を追いかけていた。 僕は必死に逃げていた。 しかし、しばらくすると、影を追いかけていた。 必死に逃げ、必死に追いかけた。 僕は目を開けた。 目を開けると、クリーム色の空間に水色のベンチがぽつんと見えた。 そこには背もたれに紐で縛り付けられた赤い風船が揺らめき浮かんでいた。 そして、いつの間にか、ベンチには茶色いソフトハットを被り、茶色いツイードのスーツを着た男が足を組み座っていた。 顔は真っ黒く、目も鼻も口も見当たらない。手だって真っ黒かった。 男は僕の視線に気が付いたのか、僕を見つめた。 僕達はお互いを見続けた。 もちろん、男の目はないが、目があるということは感じとれた。 僕の脳裏には、黒い空間の中に、淡い黒い大きな目が浮かんでいる光景が見えた。 男の目は鋭く、肉食獣の目を思い出させた。 しばらく、僕は男と向かい合ったまま、動けなかった。 額からは冷や汗がゆっくりと肌を滑り落ちた。 汗は落ちまいと必死に力を入れたが、重力には逆らえず肌から離れた。 破裂音がした。 その音で、僕と男の視線はそれた。 そして、風船が裂けていく光景を見ていた。 風船はじつにゆっくりと裂けた。 まるでスロー再生を見ているようであった。 ゴムが何枚かに破れ、花のような形になり、中からは霧吹きで吹いたような、粒子が飛散した。 そして、風船は地面に落ちていった。 それと同時に男はベンチから立ち上がり、ソフトハットを後ろへ放り投げた。 僕は走っていた。 僕は立ち止まっていた。
ずっと、暫くの間。 いや、僕たちがこれから出会うであろう、様々の事に比べたら、ずっと、短い。 ましてや、空の向こうに輝く星に比べたら、無いにも等しい。 だけど、星がどんなにはなれて、どれだけ多くの人が目を輝かせて見ていようとも、僕の感じた、ずっと、暫くの間は、長く続いていた。 ただの一過点だと。 そうかもしれない。 だけど、それは、ずっと、永遠に刻み込まれ、出口の見えない迷路の中をさまよい続ける事になる。 風が吹き、風がやみ、また風が吹いた。 君はずっと曇った空を見続けていた。 漂う長い髪を揺らしながら。 そして、白いスカートを揺らしながら。 風に乗じた香りの粒子は、そっと、風下へ流れていった。 僕たちは黙っていた。 ずっと、暫くの間。 話す事を禁じられた、いや、話すことが存在しない世界にきてしまったかのように。 実際に、そんな世界に迷い込んだのかもしれない。 周りには、人が居て、やはり、向こうの海を見ていた。 でも、そんな人達は、絵画の中の淡い、表情のない風景に過ぎなかった。 何かを話していただろう。 でも、そんな話し声は、僕達にはまったく聞こえなかった。 風がやんだ。 君の髪は元の位置に収まった。 僕は海に向かっていた。 一つの峠を越えた辺りから、木々の間に海が見え出していた。 白く、曇った空に、煌く海が。 一晩考えた挙句、僕は海に行くことにした。 大して行く気にはならなかった。 だが、どうしても、気になっていた。 玄関の扉を開けて外にでた瞬間、何かがつま先に当たった。 高い小気味良い音をたてて、転がっていった。 それは、日の光を反射させて、踊っているように見えた。 小さなガラスのビンだった。 ガラスのビンは、おとなしくなり、やがて止まった。 それを拾い上げると、中には、白い紙が入っていた。 僕は紙をを中から、取り出した。 「海で会いましょう」 ボールペンで書かれていた。 海に到着すると一目で分かった。 それを書いた人物が誰なのか。 その女性は、会ったことがあるわけではないけれど、確実に分かった。 周りの人たちが、薄れて見え、手すりに腕を乗せて海をみている彼女だけが、くっきりと鮮明に見えた。 僕は彼女に近づいた。 彼女は、海から顔を僕のほうへ向け、微笑んだ。 「こんにちは」 僕は言った。 だが、それは声にはならなかった。 うまく、声に出すことができなかった。 彼女は、微笑んで僕の方を見ていた。 その微笑みは、僕の隣に来るようにと、言っているようだった。 僕は彼女の隣に並んで、海を見た。 時折、彼女の横顔を伺ったが、目には、海が映っていた。 風が吹いて、風が止んで、また風が吹いた。 星が雲の隙間から、輝きを放った。 |
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